2014年8月22日金曜日

ありがとう

誰よりも長い付き合いだったこの楽器。いざ手放すとなると恋人と別れてしまうときのようにちょっと辛く寂しい気持ちだ。高校時代チェロの音色に惹かれ、ピアノ科からチェロ科に転科してすぐの夏のある日、当時新校舎移転で殆ど使われていなかった木造旧校舎の練習室で恩師から楽器の構え、弓の持ち方をいちから教わり、その日からいつの間にか44年も経ってしまった。間もなく先生がより良い楽器が欲しいとのことでこの楽器を運良く譲り受けることになったのがこの楽器とのなが〜い付き合いの始まり。

「最後に記念写真を撮っておこう」

きれいなヘッドの渦巻き(スクロール)

考えようによってはこの楽器との出会いが私の人生の方向を決めてきたことになる。もし他の楽器だったら、今ここに居なかったかもしれないし、伴侶ともめぐり会っていなかったかもしれないと思うと不思議な感じがする。一時期 f さんが使用した時期もあったが社会人になって、弾くチャンスが無くなり、また私の元に戻ってきた。思い入れのあるこの楽器はたぶん一生手放さないだろうと思っていたが、あとどのくらい弾いていられるだろうと年齢を考え始める時期に至った。今3台ある中で、 f さんが気に入っている一台のほか、ここ10年近く使用している楽器はおそらくこのまま最後までつき合っていくことになるでしょうし、年に数度さわるだけの殆どインテリア化してしまっているこの楽器は誰かに弾いてもらったほうが楽器のためにはきっと幸せではないだろうかと考え、一大決心をしたのだ。

ヘッドにむかうカーブも美しい

この楽器は先生が芸大の学生の時、ある子供向け音楽番組のテーマ曲に採用になって
その賞金で購入したのだと聞いた。ストラディバリウスをモデルにフランスで制作された楽器で特に C、G の響きが柔らかく奥行きのある温かい音色でとても好きだった。私のところに来るまでもきっといろんなことがあったんだろうな。

肩幅が狭くネックも細くて胴体の少し長いのが特徴
そのためとくに女性には構えやすく、押さえやすいので指の負担が少なかった。
ニスがとても柔らかいこの楽器は今年のように湿気の多い時期が長いと
とくに管理に気をつけなければならない。


字孔からみえるラベル
ストラドモデルと呼ばれるストラディバリウスの楽器と同じ寸法で作られたもの
この楽器もラベルにはクレモナとあるが実際はフランスで制作された

幸いこの楽器は知り合いの方のところへお嫁入りするのでいつでも会えるし、知っている方のところで本当に良かった!きっと大切にしてくれることでしょう。


装飾が美しい

横板のトラ模様が気に入っていた。

ほれぼれするこの横顔

駒側からネックを見て

最後に全身の記念写真



語り尽くせないほどたくさんの思い出があるこの楽器とも今月でお別れ。名残惜しいけど最後にたくさん、たくさん弾いてこの音色をできるだけ記憶にとどめておこう。
そして楽しい時間をともに過ごせたこと、本当にありがとう!


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