二十歳の夏休み、何が原因だったか忘れてしまったくらいだから、
きっと些細なことだったのでしょう。母と喧嘩してしまった。
顔を合わせたくなくて自分の部屋に閉じこもり暇な時間を過ごすのだが、
な〜んにもすることがないし、つまらないし
母が毎月とっていた確か秋号の「ミ○ス」を何気なくパラパラめくって見ていたら
オシャレな刺繍の巾着の写真が目に止まった。
この刺繍を見るたびに
母と喧嘩したときのことを思い出す。
深い紺地のベッチン素材に草花が絡み合った美しいフランス刺しゅうの巾着バッグ。
もう作りたくて作りたくて母との喧嘩もどこへやら。すぐさま材料を揃え、
2日間、夜中もかかって部屋に閉じこもり仕上げた。
そのときの母はまだ私がプンプンしていて部屋から出て来ないと思っていたらしい。
私はあまり器用なほうではないので、よく見ると一つ一つの花の形が「いびつ」で
綺麗ではないけれど、自分ではとても気に入って、結婚してからも松脂やミュート、
筆記用具等、楽器のお供として長いこと使っていた。
雑誌に載っていたバッグには上部の真ん中に
大きな四角い無色のガラスのブローチが付けられていて
とても素敵だったのを覚えている。
その後、ぼろぼろになってきて捨てるに捨てられずタンスの小引き出しに
ずっとしまっておいたが、あるとき思い切って刺繍の部分だけを切り取って
額にいれ自室に飾っていた。
その額を見るたびにいつかこのオシャレな巾着をもう一度作ってみたいと思い、
m さんが中学生のころだったから今から10数年前になるが再び作った。
作りながらも母のこと思い出していた。
思えば随分わがまま放題だった私は、なんでも中途半端でたまにそのことで
叱られたこともあったけれど、したいと思ったことはいつも自由にさせてくれたように思う。
今この2代目の巾着はお財布やハンカチ等入れて、近所のスーパーや
近くへ出かけるとき等に持ち歩いているいまだにお気に入りのバッグなのである。